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カスケードブルワリー | オーストラリア最古の現存ブルワリーの魅力

オーストラリア カスケードブルワリー
目次

カスケードブルワリー(CASCADE BREWERY)概要

カスケードブルワリーは1832年創業、オーストラリア最古の現存ブルワリー*としてタスマニア州ホバート南部にその歴史を刻んできました。ホバートは豊かな森と清流に囲まれ、南極からの冷涼な風が吹き抜ける地であり、この自然環境がカスケードのビールの味わいを決定づける重要な要素となっています。
*「オーストラリアで最初にできた(最も古い)ブルワリー」ということではないのでご注意ください。現存するブルワリーとしては最も古いとう意味です。

カスケードブルワリーは単なるビール製造の場ではなく、タスマニアの文化と誇りを体現する存在です。創業当初から地元の職人たちが情熱を注ぎ、長い年月をかけて技術を磨き続けてきました。その伝統は今日に至るまで守られ、「タスマニアのビールといえばカスケード」と誰もが思い浮かべるほど地域にそしてオーストラリア国内に根付いています。

ブルワリーのシンボルには、かつてタスマニアの森に生息していたタスマニアタイガー(フクロオオカミ)が描かれています。この肉食有袋類は1936年に絶滅しましたが、その姿は今もなおタスマニアの象徴として人々の心に刻まれています。ブルワリーのロゴに描かれたタスマニアタイガーは、自然への畏敬と失われたものへの想いを表し、ブランドに深い物語性を与えています。

カスケードブルワリーは現在、豪ビールメーカー最大手のカールトン・アンド・ユナイテッドブルワリーズ(CUB)により買収、保有されています。そのCUBはさらにアサヒグループホールディングスによって保有されています。

タスマニアタイガー
タスマニアタイガー

オーストラリアのビール文化ですが、実は非常に強い地域性があり、クイーンズランド州のXXXX(フォーエックス)、ニューサウスウェールズ州のトゥーイーズ(Tooheys)、ビクトリア州のビクトリアビター(VB)、西オーストラリア州のスワン(Swan)やエミュー(Emu)のように、それぞれの州には象徴的なブランドが存在します。タスマニア州では南部のカスケード、北部のジェームズボーグ(James Boag)という二大ブランドが地域の誇りとして知られています。

カスケードブルワリーのビールは「正直で素直な味」「クリアで透き通ったテイスト」として評価され、地元の人々だけでなく観光客やビール愛好家にも支持され続けています。単なる飲み物を超え、タスマニアの自然・文化・歴史が一体となった存在、それがカスケードブルワリーなのです。

カスケードブルワリーのこだわりと製法

カスケードブルワリーは創業以来、清らかな天然水と伝統的な醸造技術にこだわり続けています。タスマニアの自然が生み出す豊かな水源は、ビールの味わいに独特の透明感を与え、これがカスケードブルワリーのビールを際立たせています。

職人たちはホップや麦芽の質にも徹底的にこだわり、1世紀以上受け継がれてきた製法を守りながらも、新しいスタイルの開発にも挑戦し続けています。タスマニア産の新鮮なホップを使った限定醸造は、地元農家との絆を象徴する取り組みであり、地域と共に歩むカスケードの姿勢を示しています。

カスケードブルワリーの歴史

カスケードブルワリーの物語は1824年、イギリスからの移民ピーター・デグレイブス(Peter Degraves)が家族と共にタスマニアに到着したことから始まります。彼は到着前に500エーカーの土地を確保しており、ホバート到着後すぐに製材業を開始しました。

しかし1826年、イギリスに残した債務問題で訴訟を起こされ、ピーターは5年間投獄されます。借金総額は今日の価値で約4,500万豪ドルに相当し、彼が収監されている間は共同経営者ヒュー・マッキントッシュ(Hugh Macintosh)が事業を管理しました。

投獄中、ピーターは周囲の川が製材所や工場の排水で汚染されていることに気づき、「清らかな水を使った良質な飲み物」を作る構想を練り、1832年に出所後すぐブルワリーを創業しました。これがカスケードブルワリーの始まりです。

1852年にピーターが亡くなると、息子たちが経営を引き継ぎますが、1881年には弁護士ジョン・ウィームス・サイム(John Wemyss Syme)がブルワリーを買収。サイムはライバル3社を統合し、1883年にカスケードブルワリー・カンパニー・リミテッドを設立。1883年から1911年にかけてタスマニア全土で90軒以上のホテルを傘下に収め、ブルワリーは急成長しました。

20世紀に入ると、1927年には最新設備が導入され、1933年にはフランシス・グザヴィエ・デ・バヴァイ(Francis Xavier de Bavay)が醸造責任者として施設や庭園の改装を進め、ブルワリーは地域文化の拠点として発展します。

しかし1967年2月7日、タスマニア南部を襲った大規模な山火事がブルワリーにも甚大な被害を与えます。62名の犠牲者を出し、数千の家屋を失う中、カスケードブルワリーはわずか3か月で生産を再開し、その復活は地元の人々に大きな希望を与えました。

1980年代になるとオーストラリアのビール業界は合併・買収の波に飲み込まれ、1993年にはカールトン・アンド・ユナイテッドブルワリーズ(Carlton & United Breweries(CUB))がカスケードを買収。さらに2020年にはCUBがアサヒグループホールディングスに買収され、現在カスケードブルワリーはアサヒ傘下となっています。

地元のファンからは「買収以降、昔のような多彩なラインナップや個性的なビールが減った」という声もあり、『昔のカスケードの方が面白かった』という意見が語られることも少なくありません。

カスケードブルワリーのビール製品ラインナップ

カスケードブルワリーのビール製品

カスケードブルワリーと観光

カスケードブルワリーは単なるビール製造の場にとどまらず、タスマニア観光のハイライトとして多くの旅行者に愛されています。ホバート市街からわずか10分ほどの距離にありながら、雄大な自然に囲まれたロケーションは、訪れる人々に特別な時間を提供します。

敷地内にあるカスケード・ブルワリーバー(Cascade Brewery Bar)では、タスマニア産の新鮮な食材を使った料理と、ブルワリー直送のフレッシュなビールを堪能できます。地元の旬の食材とカスケードのビールが織りなす組み合わせは、ここでしか味わえない贅沢です。特に夏の季節には、南半球特有の明るい日差しの下でビールを楽しむことができ、旅行者にとって忘れられない体験となります。

オーストラリア カスケードブルワリー
写真提供:cascadebreweryco.com.au

また、ガイド付きのブルワリーツアーは大きな人気を誇ります。このツアーではカスケードブルワリーの歴史を学びながら、実際の醸造設備や仕込み工程を間近で見学できます。巨大な発酵タンクや醸造室の香り、熟成を待つビール樽が並ぶ光景は、ビールファンにとって圧巻です。ガイドはカスケードの200年にわたる歴史やタスマニアのビール文化について熱く語り、参加者の理解を深めてくれます。

オーストラリア カスケードブルワリー
写真提供:cascadebreweryco.com.au

ツアーの最後にはテイスティングセッションが用意されており、複数のカスケードビールを少しずつ試飲できます。ここでしか味わえない限定ビールが提供されることもあり、ビール愛好家にとっては見逃せない瞬間です。

さらにカスケードブルワリーの敷地には、オーストラリアでも屈指といわれる美しいビアガーデンが広がっています。南極からの冷涼な風が吹き抜ける庭園で、ビールを片手にリラックスするひとときは、他では味わえない特別な体験です。タスマニアの豊かな自然と歴史的建物が一体となったこの景観は、多くの観光客にとって写真に収めずにはいられないスポットとなっています。

旅行者の中には、ブルワリー見学と合わせてタスマニアのワイナリーや地元の食文化を楽しむルートを組み込み、グルメと自然を満喫する1日を計画する人も多いです。カスケードブルワリーはその中心的な存在として、タスマニア観光に欠かせない目的地となっています。

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