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エンデバーグループ / ピナクルドリンクス|オーストラリア最大の酒類小売企業

エンデバーグループ/ピナクルドリンクス
目次

実店舗、オンライン共にオーストラリア全国に巨大な酒類販売のチャネルを持つ企業が豪醸造会社最大手の脅威に!!

はじめに

エンデバーグループ(Endeavour Group)は、2020 年にウールワース(Woolworths)*から分離独立して誕生した、オーストラリア最大級の酒類流通・小売企業です。全国規模の店舗展開に加え、ウェブ販売も展開するダンマーフィーズ(Dan Murphy’s)やビー・ダブリュー・エス(BWS)といった販売網を背景に、同国の酒類業界を支配する存在として知られています。本来的には「流通・小売企業」であり、醸造は後から追加されたビジネスですが、その圧倒的な規模と影響力を通じて、ビールブランド市場に強烈な存在感を放っています。
*ウールワース:オーストラリアとニュージーランドで店舗を展開するスーパーマーケットチェーン、最大手の1つ

本サイトでは通常、ビールメーカーやブルワリーを紹介しています。しかしこのエンデバーグループは例外的に取り上げないわけにはいきません。その理由は、オーストラリアのビール文化と市場の流れを語る上で、彼らが単なる小売企業にとどまらず、子会社のピナクルドリンクス(Pinnacle Drinks)を通じて積極的にブランド開発を行い、ビール市場に大きな影響を与えるジョンボストン(John Boston)のような「クラフト風ビール」ブランドを生み出しているからです。エンデバーグループは、流通の巨人にとどまらず、このように自らブランドを多数創出して市場に影響を与えるプレイヤーへと進化したのです。

そしてその存在は、もはや小売の枠を超えています。ライオン(Lion)カールトン&ユナイテッドブルワリーズ(Carlton & United Breweries, (CUB))、そしてクーパーズ(Coopers Brewery)といったオーストラリアを代表する三大醸造メーカーにとっても、エンデバーグループは無視できない、いやむしろ脅威的な存在へとなりつつあるのです。すなわち、エンデバーグループは醸造所ではなくとも、オーストラリアのビール市場を理解する上で欠かせない存在なのです。

エンデバーグループ/ピナクルドリンクス
エンデバーグループ/ピナクルドリンクス

エンデバーグループ(Endeavour Group)の概要

エンデバーグループは、オーストラリア国内で最大級の酒類販売・ホスピタリティ事業を展開しています。設立は 2020 年であり、ウールワースからのスピンオフによって誕生しました。現在では数千の店舗ネットワークを持ち、酒類販売におけるシェアは国内最大級です。

特筆すべきは、同社が単なる「販売業者」にとどまらない点です。ホテルやパブを含むホスピタリティ産業にも進出し、酒類の販売から消費現場までを一体化して事業展開しているのです。このため、消費者にとってエンデバーグループは「酒を買う場」を超えて「酒を楽しむ環境」そのものを提供する存在として認識されています。

さらに、株式上場企業として投資家からも注目されており、その市場規模と影響力は国内の酒類業界において他の追随を許しません。大手醸造会社にとっても、エンデバーグループの存在は戦略上無視できない競合要素となっています。

エンデバーグループ
エンデバーグループ

ピナクルドリンクス(Pinnacle Drinks)の役割

ピナクルドリンクスは、エンデバーグループが展開するプライベートブランド事業です。ウールワース系列の酒販店、特にダンマーフィーズやBWSで販売される数多くのオリジナルブランドを企画・開発・管理しています。

その事業は、特定の醸造所や蒸留所、ワイナリーと提携して製品を製造してもらう「ホワイトラベル」方式*が中心です。これにより、既存の有名ブランドと似た味わいやスタイルを、より手頃な価格で提供することを可能にしています。
*「ホワイトラベル」方式:他社が開発・製造した製品を、自社のブランド名で販売するビジネスモデルのこと

自社ブランドの開発にも力を入れ、ビールのJohn Bostonや、ジンブランドのHoundstooth Ginは特に人気があります。また、ワインのBlood Brother Republicを始め、175以上のブランドを所有しています。これらのブランドは、消費者に手頃な価格で、かつ特定のスタイルやトレンドに合わせた製品を提供するために作られています。そして、その流通はDan Murphy’sやBWSといったEndeavour Group系列の店舗に限定されるため、他社との差別化を図ることができます。

Pinnacle Drinksの目的は、小売企業としての巨大な購買力と流通網を活かし、消費者に独占的な価値提案をすることにあります。これにより、競争の激しいオーストラリアの酒類市場において、価格と品質の両面で優位性を確立しています。

ピナクルドリンクス
ピナクルドリンクス

ダンマーフィーズ(Dan Murphy’s)とビー・ダブリュー・エス(BWS)の流通チャネル

ダンマーフィーズ(Dan Murphy’s)

1952 年に創業され、現在ではオーストラリア最大級の酒販チェーンとして知られています。品揃えの豊富さと低価格戦略は消費者から高く支持され、特に「まとめ買い」「幅広い選択肢」という点で他社の追随を許しません。さらに、オンライン販売にも早くから注力しており、全国配送に加え、店舗受け取りサービスや迅速なデリバリーを導入するなど、オーストラリア全土で圧倒的な存在感を示しています。その結果、実店舗とオンラインの双方において「酒を買うならダンマーフィーズ」と言われるほどのブランド力を築いています。

オーストラリア最大級の酒販チェーン ダンマーフィーズ

ビー・ダブリュー・エス(BWS)

2001 年に設立され、日常的に立ち寄れる小規模店舗のネットワークを展開しています。国内に約1,500店舗を持つBWSはオーストラリア人にとって「気さくで庶民的なボトルショップ」として広く認知され、日々のビール調達に欠かせない存在です。近年では、スマートフォンアプリを通じたオンライン注文や短時間デリバリーサービスを強化し、利便性をさらに高めています。ブランドイメージは親しみやすく、便利で身近ですが、やや無難で保守的な印象を持たれることもあります。それでも、その利便性・オンラインサービスの充実・店舗数の多さは絶対的な強みであり、ジョンボストンの全国展開を支える大きな柱となっています。

オーストラリアの庶民的なボトルショップBWS
オーストラリアの庶民的なボトルショップBWS

ジョンボストン(John Boston)とジェームズスクワイア(James Squire)の関係性

ジョンボストンはクラフト風ビールとしてピナクルドリンクスにより展開されますが、その実態は大規模な流通網を背景に設計された「戦略的ブランド」です。この構造は、豪飲料大手ライオンが展開するモルトショベルブルワリーのジェームズスクワイアと類似しています。

ジョンボストンブランド自体は 2009 年頃にワインソサエティ(The Wine Society)によって立ち上げられ、「ジョンボストン・プレミアムラガー」として市場に投入されました。ただし、この時点では流通規模も限定的で、大きな知名度を獲得するには至りませんでした。転機となったのは 2014 年で、この年にブランドが ピナクルドリンクスに移管され、本格的な再構築が進められた結果、エンデバーグループの流通網を通じて一気に広まり、消費者に広く知られる存在となりました。

ジェームズスクワイアは、オーストラリアで最初に商業的にビールを醸造した人物の名を冠し、1998 年にモルトショベルブルワリーで展開を開始しました。歴史性と物語性を強みに、クラフトと大手の中間に位置づけられるブランドとして成功を収めています。

ジョンボストンもまたオーストラリア国内で最初にビール醸造に成功した人物の一人とされ、このジェームズスクワイアのコンセプトを強く意識して投入されました。両者は見た目やブランドの雰囲気にも共通点が見られますが、違いは明確です。ジェームズスクワイアが「歴史と物語」を武器にしているのに対し、ジョンボストンは「手頃さ」と「流通規模」を武器にしているのです。消費者にとってジョンボストンは「クラフトの雰囲気を誰でも気軽に楽しめるビール」として受け入れられています。

オーストラリアの歴史上誰が最初にビール醸造を成功させたかについては「オーストラリアビールの歴史」内、「オーストラリアの歴史上、初のビール醸造」の項目を参考に。

ジョンボストン(John Boston)シリーズ
ジョンボストン(John Boston)シリーズ

まとめ

エンデバーグループは、もともと酒類の流通・小売を基盤とする企業ですが、その強大な販売網とプライベートブランド開発力を活かして、ジョンボストンのようなブランドを市場に投入し、豪ビール業界において大きな影響力を持つ存在となっています。ダンマーフィーズやビー・ダブリュー・エスという二大流通チャネルを活かすことで、ジョンボストンはクラフト風でありながら全国的に普及し、消費者にとって「手軽に楽しめるクラフト的選択肢」として浸透しました。

また、ジェームズスクワイアとの比較からも分かる通り、ジョンボストンは「大手によるクラフト風ブランド」の代表格であり、オーストラリアのビール市場において大手メーカーにとっても無視できない競合的存在となっています。

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