オーストラリアの主要ビール会社3社
まず冒頭に、正確ではないがオーストラリアにおけるビール会社のイメージを簡単に説明する。
オーストラリアビールの基本情報のページ内でも語っている通りオーストラリアのビール業界は寡占であり、大手メーカーは3社しかない。日本に置き換えると、例えばアサヒ、キリン、サントリーの3社のみが存在しているようなイメージとなる。オーストラリアのそれら3企業はビール市場のシェア上位からそれぞれ
- カールトンアンドユナイテッドブルワリーズ(Carlton & United Breweries (CUB) (通称「シー・ユー・ビー」))
- ライオン(Lion)
- クーパーズブルワリー(Coopers Brewery)
である。
しかし上記、カールトンアンドユナイテッドブルワリーズは日本のアサヒグループホールディングス(Asahi Group Holdings, Ltd.)に保有され、またライオンは日本のキリンホールディングス(Kirin Holdings Company Limited)に保有されており、またマイクロブルワリー(後述)の中でも多くの有名な企業はこれら2社によって買収、保有されている。
実にオーストラリアのビール業界は日本の企業によって支配されているのである。
このページではオーストラリアのビールの企業形態について詳しく説明していく。
オーストラリアのビール会社の分類、超大手とそれ以外
オーストラリアはその長くはない歴史の中で大変に多くの(それこそ、ビールの銘柄ほどの!)ビール醸造所(ブルワリー)が生まれては消えていった。
初期の頃は個人が経営していたり、小規模な会社によって運営されていることがほとんどであった。1901年1月1日の建国以来※、酒に関する法改正などもあり、生き残れないところは他社へ吸収されるという道を選び、大きなブルワリーはより大きくなっていった。またその一方で、小さいまま運営を続けていく会社もあった。もちろんその中には多くの廃業の道を選ぶものもいた。
※旅行ガイドや、オーストラリア在住者のブログなどでたまに1月26日のオーストラリア・デーを建国記念日と表現するものがあるが、これは明確に誤りだと主張する。これは1788年1月26日に最初の入植者がシドニーへ到着した日であり、建国の日ではない。1901年1月1日こそがオーストラリア連邦が成立した、建国日となるのである。
その結果、オーストラリア国内のビール醸造所は大きく2つの系統に分類されるようになった。
1.Major brewery(メジャーブルワリー)
2.Micro Brewery(マイクロブルワリー)/ Craft Brewery(クラフトブルワリー)
の2つである。
マイクロブルワリーとクラフトブルワリーは団体によって定義を定めているところもあるがほぼ同意で利用される。2022年現在ではどちらかというとクラフトブルワリーという呼び方のほうが定着しているように思われる。(ただし、規模などの言及のためあえて「マイクロ」の表現を利用するなど使い分けもある。)
メジャーブルワリーは大手ビールメーカーのことで上記の通りカールトンアンドユナイテッドブルワリーズ、ライオン、クーパーズの事をさす。
これらの企業が持つビールブランドは、テレビCMや、広告などを非常に多く打ち出し、オーストラリア国内の愛飲者であればほぼ100%誰もが知る企業だ。
マイクロブルワリー/クラフトブルワリーといった言い方も現在では日本語になっている程ではあるが、大手メーカー以外の小規模ブルワリーをこう呼んでいる。
また、それらの小さな醸造所で作られるビールは大手メーカーのものと識別するために「クラフトビール」や「ブティックビール」等と形容されることが多い。
オーストラリアのビール業界は寡占
しかし大手と小規模ブルワリーの差があまりにも大きいのが実情だ。
大手メーカーは力を持ったブルワリーや企業をどんどん吸収し拡大を続けた結果、クーパーズを除くメジャーの超大手2社とそれに続く大手としては小規模なクーパーズ、それ以外の超小規模ビール会社が存在する、という構図が出来上がった。いかがオーストラリアビール業界のマーケットシェアの図である。

CUB、ライオンでそれぞれ約40%前後ずつ、クーパーズは大手と言われながらも約5%、これ以外のすべての残りを約700社ほどあるクラフトビール企業にて分け合う形となっている。
ところで、クーパーズ以外の大手2社は非常に多くのブランドを保有しているため1つのブランドを1ビール会社と勘違いをし、結果「オーストラリアには多くのビール会社が存在する。」と誤解される日本人もおられるがそうではないことをお伝えしたい。(*あくまで大手ビールメーカーの話。法人化されているマイクロブルワリーを含めるとそれはそれはものすごい数になる)
このサイトで紹介するビールは主にオーストラリアに関するビールの基本情報、またメジャーブルワリーにフォーカスを当てているがマイクロブルワリーについては主要なところは余すところなく紹介をしてく。
メジャーブルワリーを持つ企業
冒頭説明の繰り返しになり恐縮だがオーストラリア国内の大手ビールメーカーは3社しかなく、しかもそのうち2社は日系企業、アサヒ、キリンの傘下にある。
ところがオーストラリア国内ではアサヒ、キリンという名前ははあまり前面に出てらずあくまでオーストラリア企業によって造られるビールという感じを醸し出している。
各企業のページでそれぞれ詳しく説明するもののオーストラリア国内のメジャー3社を以下に紹介する。
1.Carlton & United Breweries(カールトンアンドユナイテッドブルワリーズ)

1つめは、主にアルコール飲料を取り扱う超巨大ビバレッジ企業、カールトンアンドユナイテッドブルワリーズだ。企業名が長いためオーストラリア国内でも「CUB」と略されることが多い。
かつてはフォスターズグループ(Foster’s Group)*という名前で知られた。(*2005年にフォスターズグループから現在のCUBへ社名を変更した。)
CUBは2011年の12月にイギリスに本拠地を置く世界屈指のビール会社のエスエービーミラー(SAB Miller)に買収され、その傘下として再出発を果たした。その後2016年にアンハイザー・ブッシュ・インベブ(Anheuser-Busch InBev)に買収された後、2019年に日本のアサヒグループホールディングスによって買収現在に至る。
オーストラリアでのビールシェアは第1位を誇り、数多くのブルワリーを保有する。
詳細はカールトンアンドユナイテッドブルワリーズ(Carlton & United Breweries)へ。
2.Lion(ライオン)

2つめは、ビールやワインをなどのアルコール飲料を多数取り扱う、オーストラリアのシドニーに本拠地を置く超巨大企業、ラインのマークが目印のライオンである。こちらの企業はかつてLion Nathan(ライオンネイサン)という社名だったが2011年に現在の「ライオン」へ変更、現在までそのままの企業名で営業を続けている。
こちらも多くの企業買収を繰り返して現在の巨大企業へと成長したのだが2009年に日本のキリンホールディングスによる全株式取得ののち完全子会社化された。
オーストラリア国内でのビールシェアは第2位。 こちらも数多くのブランド、ブルワリーを保有。
詳細はLion(ライオン)のページへ。
3.Coopers Brewery(クーパーズブルワリー)

3つ目が唯一、過去にたった一度の買収も許すことなく、今もその株式がオーストラリア国内の同族ファミリーによって保持されているオーストラリア直系のビールメーカー、クーパーズブルワリーである。 オーストラリア国内第3位のシェア。 クーパーズブルワリーだけは昔から代々続くファミリーによって運営されてきたため、ブランドもクーパーズブランド1つのみしか持たない。
クーパーズはその企業名だけでもよく「ブルワリー」を省いてそのまま「クーパーズ」と呼ばれることが多い。当サイト内でも企業名、ブランドいずれの場合でも単に「クーパーズ」と記載していることが多いがそこは内容から読み取っていただきたい。
詳細はクーパーズブルワリー(Coopers Brewery)のページへ。
クラフトブルワリー(マイクロブルワリー)について
上記3社以外はクラフトブルワリー(または、マイクロブルワリー)とよばれ、そのような小さなブルワリーで作られるビールは特別にBoutique Beer(ブティックビール)やCraft Beer(クラフトビール)とよばれ親しまれている。
マイクロブルワリー、クラフトブルワリーはどちらも同意で使われるがオーストラリア国内ではどちらかというとクラフトブルワリーと表現されることが多い。(このサイト内ではどちらも同じ意味で利用する)
大量生産できないかわりに丁寧に仕上げられ大手メーカーの製品に比べると香り高く味わい深い製品が多いが、一般的にメジャーブルワリーのものよりやや価格が高めの傾向にある。オーストラリア国内には2024年現在約700のマイクロブルワリーが存在する。
オーストラリアビールの基本情報で述べている通りだが、もともと1980年代後半ごろからぽつぽつとクラフトブルワリーが誕生し、90年代にもなると有名なところはオーストラリア各所で名前を聞くようになってきた。しかし大手メーカーは、ただの趣味が延長したようなビール会社に何ができるかと一切相手にすることはなかった。
ところがどうだ2010年代ごろから急激に成長をはじめわ、ずかながら、しかし確実にビール市場のシェアを獲得し始めていった。その成長率は毎年10%に迫ろうかという勢いだ。
しかしこれもまた当然のことであるが、もともとマイクロブルワリーとして立ち上げたのだが有名になりすぎたところも少なくない。
日本の国内で言えば、大手ビールメーカーではないがクラフトビールとしては超有名な「ヤッホーブルーイング」社があるように1、オーストラリアにおいてもマイクロブルワリーではあるが全国規模で有名になった醸造所等も多数存在する。
そのようなブルワリーは上記大手2社に買収され、メジャーブルワリーの一員であることを大きく公表せずあくまでもマイクロブルワリーという形にこだわったプロモーションをしたりするなど皮肉めいた事実もある。
ビールのブランド名とブルワリーについて
オーストラリア国内でのビールブランドとそれを醸造する醸造所(ブルワリー)、そしてその醸造所を持つ企業の関係について、人々が持つ認知について説明する。
その前にまず日本のビール業界の形態から再度確認してみる。
日本のビール業界の形態
まず日本でのメーカーとビール製品の関係についてだが、これは非常にシンプルで例えばキリンビールを例に取ると以下のように考えられる。
キリンビールという企業から「キリンラガービール」や、「キリン一番搾り」、「キリンのどごし生」、等のビールや発泡酒、その他、第三のビール等が販売されている。ビール醸造所(ビール工場)については工場がどこにあるか、その規模や特徴やといった内容は普段特に語られたり意識されることは無いだろう。
またキリンビールは持ち株会社キリンホールディングスの傘下であるが、これについても特に気にして語られることは少ないのではないか。
つまり、キリン一番搾りはキリンが作っている。アサヒスーパードライはアサヒビールが作っている、サッポロ黒ラベルはサッポロビールが作っている。
とこのように非常にシンプルな認知が一般的だ。非常に簡単ではあるがイメージ言うと下図1 のような感じであろう。
再度キリンビールを例に取ると、キリンビール(株)と一番搾りやラガーの製品の間には醸造所(ブルワリー((ビール工場))という概念が存在する。しかし日本国内ではメーカーと商品との関係においてはそれが語られることはあまりない。

オーストラリアのビール業界の形態
それではオーストラリアでの人々の認知はどうであろうか。
オーストラリア国内ではビールを製造する醸造所(ブルワリー)の名前ががそのビールのブランド名であることが非常に多い。
例えばTooheys Brewery(トゥーイーズブルワリー)というビール醸造所があるのだが、ここで生産させるビール名にはすべて「Tooheys」が付けられ、それがブランドとなっている。
トゥーイーズが作るビールには
・Tooheys New(トゥーイーズニュー)
・Tooheys Extra Dry(トゥーイーズエクストラドライ)
・Tooheys Old(トゥーイーズオールド)
等があり、どの商品も頭に「トゥーイーズ」が付く。
ちなみにこのトゥーイーズという醸造所は上記、ライオンによって保有されている。
また、運営を続けるブルワリーではオーストラリア最古のCascade Brewery(カスケードブルワリー)を例にあげると、こちらで造られるビールブランドは全て頭に「Cascade」が付き、
・Cascade Premium Lager(カスケードプレミアムラガー)
・Cascade Pale Ale(カスケードペールエール)
等と「カスケード」の名が付く。このカスケードブルワリーはカールトンアンドユナイテッドブルワリーズによって保有されている。
もちろん例外もあり、ブルワリーの名前とは異なるブランド名をもつビールを製造するところもある。
例えばライオン保有のCastlemain Perkins(カッスルメインパーキンス)という醸造所が作るビールは全てXXXX(フォーエックス)というブランドで統一されている。
オーストラリアでXXXXブランドのビールを知らないものはいない。しかしこれがカッスルメインパーキンスという醸造所が製造しているということを知らない人々もいるのである。
カールトンアンドユナイテッドブルワリーズが保有する国内最大の醸造所(これも「カールトンアンドユナイテッドブルワリーズ」と呼ばれる)に限っては少々特別で、このブルワリーからは数多くのブランドが出されている。
これら、親会社、醸造所、その醸造所が作るブランドに関しては各メーカー紹介のページで詳しく説明しているのでそちらも参考にして頂きたい。
オーストラリア国内でビールメーカーや銘柄の話をする際、「私はカールトンアンドユナイテッドブルワリーズのビールが好きだ。」や、「私はライオンのほうが好きだね。」という会話はほとんど聞かれない。
代わりに「私はトゥーイーズが好き。」といった感じや、「私はカスケードが好き、特にカスケードのプレミアムラガーが。」等と、ブランド名での会話が殆どである。
また、自分が好みのブランドを作るブルワリーがどの企業に保有されているかを知らない人も少なくない。