ビールメーカー?ビール会社?醸造所?
オーストラリアでビールを製造している会社や醸造所について考える時、日本とは全く違った体系になっていることに驚かされる。
オーストラリアのビールメーカー等について語るとき日本とはまた違った構造のため単純に説明することができない。このページではビールメーカーや、醸造所、それらがもつブランドについての位置づけについて説明していく。
オーストラリアビール基礎パーフェクトガイド!のページでも説明している通り、オーストラリアの大手ビール会社は3社のみしか存在ない。
しかしその一言でまとめられるほど単純な構造でもない。
ここではできる限りそのイメージをわかりやすく伝えるためまずはオーストラリアのビール会社の構造についてのポイントを1行程度にまとめ、さらにその内容について掘り下げていくようにする。
まず、オーストラリアのビール会社についてポイントを簡単にまとめると以下のように表現できる。
1.オーストラリアのビール会社は大手3社のみの寡占状態
2.ビール会社大手の3社は以下のとおり:
- Carlton & United Breweries(カールトン アンド ユナイテッド ブルワリーズ)(CUB)
- Lion Nathan(ライオンネイサン)
- Coopers(クーパーズ)
3.様々なビールブランドについては
「そのブランド専用のブルワリー(醸造所)にて製造されている」
というイメージで認知されている。
4.一方、ブルワリーは2つの系統に分類される。
- メジャーブルワリー
- マイクロブルワリー
の2つだ。
5.メジャーブルワリーは上記大手のCUBかライオンネイサンかクーパーズによって保有されている。
※ただしクーパーズは1ブランドのみ(1ブルワリーのみ)しか保有していない(詳細後述)
6.マイクロブルワリーは日本でいう地ビール会社のようなイメージだが、オーストラリアでは有名なマイクロブルワリーが多数存在する
それでは上記6項目に関して詳細を説明していくが、各項目はそれぞれが密接にかかわっているため、それぞれの項目ごとの説明が難しい。
上記概要を理解されたうえで以下内容をご確認いただくと幸いである。
まずはブルワリーつまり醸造所の説明から始める。
ブルワリー(醸造所)について
オーストラリアはその長くはない歴史の中で多くのビール醸造所(ブルワリー)が出来ては消えていった。
ビール生産が一般的になってきた1800年代中盤から後半にかけて醸造所は個人が経営していたり、小規模な会社によって運営されていることがほとんどであった。
法改正などで生き残れないところは大手に吸収されるという道を選び、大きなブルワリーはより大きくなっていく一方で、小さいまま運営を続けていく会社もあった。
その結果、オーストラリア国内のビール醸造所は大きく2つの系統に分かれていった。
それらは:
◆ Major brewery(メジャーブルワリー)
◆ Craft Brewery(クラフトブルワリー)
の2つである。
メジャーブルワリーは後述する大手ビール会社が保有しているビールブランドの醸造所の事を指し、クラフトブルワリーはそれら大手が保有する以外のすべてのビール醸造所(ビール会社)の事を指す。
クラフトブルワリーは時々Craft beer brewery(クラフト ビア ブルワリー)や、microbrewery(マイクロブルワリー)※1と呼ばれることもある。
※1:microbreweryはそれで1つの単語となっている。(micro breweryと分かれていない)
マイクロブルワリーやクラフトビールといった言い方はもはや日本語にもなっておりそれは「地ビール」のような扱いをうける小さなビール醸造会社をこのように呼ぶという認知であろう。
しかしながら、例えば日本の国内で言えば、大手メーカーのビールではないがものすごく有名な「よなよなエール」があるように、オーストラリアにおいてもクラフトブルワリーではあるが全国規模で有名な醸造所等が非常に多く存在する。
特に2000年代ごろからはクラフトビールの人気が爆発的に伸びてきて、もはや大手メーカーも無視できないほどの市場規模へと成長してきた。
したがって現在のオーストラリアでの認知は(上記繰り返しで恐縮だが)、
大手メーカー以外はすべてクラフトブルワリー(または クラフトビアブルワリー)と呼び、その中でも特に小さなビール醸造会社(それは時々地元のパブなどが自分たちでビールを醸造し自分たちのお店だけで飲めるように提供していたりもする)をマイクロブルワリーと呼ぶ、といったものだ。
そしてそれらの醸造所で作られるビールは大手メーカーのものと識別するために「クラフトビール」や「ブティックビール」等と形容されることが多い。
「ブティックビール( Boutique Beer)」はマイクロブルワリーのような特に小規模の醸造会社(や個人)によって作られるビールを指すことが多い。
ちなみに、このサイトで紹介するビールは主にメジャーブルワリーにフォーカスを当てているがマイクロブルワリーについては主要なところを中心に紹介している。
寡占となっている大手ビール会社3社について
さて、上記でメジャーブルワリーと、マイクロブルワリーについて説明したが、メジャーブルワリーはオーストラリアの巨大ビール会社3社のいずれかによって保有されている。
オーストラリアビール業界も日本と同じように寡占状態なのだ。
オーストラリアと日本のビール会社の形態が大きく異なるため同列に扱うことはできないが、それでもあえてわかりやすく言ってしまえば「アサヒ」「キリン」「サッポロ」のみしかない。そんなイメージである。
オーストラリア国内のメジャーブルワリーを持つ3社は:
■ Carlton & United Breweries(カールトン アンド ユナイテッド ブルワリーズ)
■ Lion Nathan(ライオンネイサン)
■ Coopers(クーパーズ)
である。
以下それぞれの企業詳細を説明する。
1.Carlton & United Breweries(CUB)
(カールトンアンドユナイテッドブルワリーズ (シーユービー))
1つめは、アルコールやソフトドリンクなどワインを除く飲料を取り扱う超巨大ビバレッジ会社、カールトンアンドユナイテッドブルワリーズのグループだ。
2011年までFOSTER’S GROUP(フォスターズグループ)という名前で会社が存在し、フォスターズグループはオーストラリアの主要なビール醸造所を保有しているという状態が続いていた。
2011年の12月にイギリスに本拠地を置く世界屈指のビール会社のSAB Miller(エスエービーミラー)に買収されたがその直前に社名をフォスターズグループから現在のカールトンアンドユナイテッドブルワリーズ(CUB)へ変更した。
エスエービーミラーはその後2016年10月に世界中のビールシェア3割を誇る超巨大企業 Anheuser-Busch InBev N.V.(アンハイザー・ブッシュ・インベブ)に買収された。同時にエスエービーミラーという企業は消滅した。
CUBのオーストラリアでのビールシェアは第1位を誇り、多くのブルワリー(ビールブランド)を保有する。
2.Lion Nathan(ライオンネイサン)
2つめは、ビールやワインなどのアルコール飲料を多数取り扱う、オーストラリアのシドニーに本拠地を置く超巨大企業、ライオンネイサンである。 オーストラリア国内でのビールシェアは第2位。 その名の通りライオンをトレードマークとしており、こちらも数多くのブルワリー(ビールブランド)を持つ。
ライオンネイサンは親会社のLion Pty Limited(ライオン)に保有されているが、そのライオン自体はまた日本企業のKirin Holdings Company Limited(キリンホールディングス)によって保有されている。
3.Coopers Brewery(クーパーズブルワリー)
3つ目が唯一、過去に一度も他企業による買収など一切されず、また今でもその全株式がオーストラリア国内の同族ファミリーによって保持されているオーストラリア直系のビールメーカー、クーパーズブルワリーである。
オーストラリア国内第3位のシェア。
クーパーズが保有するビールブランドは「クーパーズ」というシリーズ(ブランド)1種類のみしか存在しない。
大手3社以外のビール会社について
以下は上の方で記載した通りなのだが、大手3社以外はクラフトブルワリーやマイクロブルワリーとよばれる。
大量生産できないかわりに、原材料や製法にこだわりかつ丁寧に仕上げられることから大手メーカーの製品に比べると高品質な製品が多いが、一般的にメジャーブルワリーのものよりやや価格が高めの傾向にある。
オーストラリア国内には非常に数多くのクラフトブルワリー(マイクロブルワリー)が存在する。
元々はマイクロブルワリーとして運営を続けてきたが有名になりすぎたため大手に吸収されたところも多く、例えば「マチルダベイブルーイングカンパニー」は非常に小さな形にて運営を開始したブルワリーであったが最終的にはカールトン&ユナイテットブルワリーズに買収されている。
同様にオーストラリア国内では伝説的な醸造家、Dr Charles “Chuck” Hahn(チャールズ(チャック)ハーン博士)によって立ち上げられたマイクロブルワリー、「ハーンブルワリー」や「モルトショベルブルワリー」はライオンネイサンによって吸収された。
ビールのブランド名とブルワリーの関係について
オーストラリア国内でのビールブランドとそれを醸造する醸造所(ブルワリー)、そしてその醸造所を持つ企業の関係について、人々が持つ認知について説明する。
その前にまず日本のビール業界の形態から再度確認してみる。
日本のビール業界の形態
まず日本でのメーカーとビール製品の関係についてだが、これは非常にシンプルで例えばキリンビールを例に取ると以下のように考えられる。
キリンビールという企業から「キリンラガービール」や、「キリン一番搾り」、「キリンのどごし生」、等のビールや発泡酒、その他、第三のビール等が販売されている。ビール醸造所(ビール工場)については普段特に語られたり意識されることは無い。またキリンビールは持ち株会社キリンホールディングスの傘下であるが、これについても特に気にして語られることは少ない。
つまり、キリン一番搾りはキリンが作っている。アサヒスーパードライはアサヒビールが作っている、サッポロ黒ラベルはサッポロビールが作っている。
とこのように非常にシンプルな認知でははなかろうか。非常に簡単ではあるがそのイメージを図で表せば下図1 のような感じである。
再度キリンビールを例に取ると、キリンビール(株)と一番搾りやラガーの製品の間には醸造所(ブルワリー((ビール工場))という概念が存在する。しかし日本国内ではメーカーと商品との関係においてはそれが語られることはあまりない。
そのビール製品がどこで作られているかということに関してはあまり気にしていないのが日本人のビールに対する認知だ。
オーストラリアのビール業界の形態
それではオーストラリアでの人々の認知はどうであろうか。
オーストラリア国内ではビールを製造する醸造所(ブルワリー)の名前がそのビールのブランド名であることが非常に多い。
例えばTooheys Brewery(トゥーイーズブルワリー)というビール醸造所があるのだが、ここで生産されるビール名にはすべて「Tooheys」が付けられ、それがブランドとなっている。
トゥーイーズが作るビールには
・Tooheys New(トゥーイーズニュー)
・Tooheys Extra Dry(トゥーイーズエクストラドライ)
・Tooheys Old(トゥーイーズオールド)
等があり、どの商品も頭に「トゥーイーズ」が付く。
ちなみにこのトゥーイーズという醸造所は上記、ライオンネイサンによって保有されている。
また、運営を続けるブルワリーではオーストラリア最古のCascade Brewery(カスケードブルワリー)を例にあげると、こちらで造られるビールブランドは全て頭に「Cascade」が付き、
・Cascade Premium Lager(カスケードプレミアムラガー)
・Cascade Pale Ale(カスケードペールエール)
等と「カスケード」の名が付く。
このカスケードブルワリーはカールトンアンドユナイテッドブルワリーズによって保有されている。
もちろん例外もあり、ブルワリーの名前とは異なるブランド名をもつビールを製造するところもある。
例えばライオンネイサン保有のCastlemain Perkins(カッスルメインパーキンス)という醸造所が作るビールは全てXXXX(フォーエックス)というブランドで統一されている。
ビールブランドのXXXX(フォーエックス)を知らないものはいないがこれがカッスルメインパーキンスという醸造所が製造しているということを知らない人々もいる。
フォスターズグループから社名を変更したが「カールトンアンドユナイテッドブルワリーズという企業」が保有する国内最大の醸造所「カールトンアンドユナイテッドブルワリーズという醸造所」に限っては少々特別で、このブルワリーからは数多くのブランドが出されている。
これら、親会社、醸造所、その醸造所が作るブランドに関しては各メーカー紹介のページで詳しく説明しているのでそちらも参考にして頂きたい。※2
※2:これはわかりにくい。。わかりにくいが、かつては「フォスターズグループ」という企業が「カールトンアンドユナイテッドブルワリーズ」という醸造所を保有していたが「フォスターズグループ」が会社名を「カールトンアンドユナイテッドブルワリーズ」に変えてしまったため、「カールトンアンドユナイテッドブルワリーズ」という企業が保有する「カールトンアンドユナイテッドブルワリーズ」という醸造所がある、という状態が発生してしまっている。
オーストラリア国内でビールメーカーや銘柄の話をする際、「私はカールトンアンドユナイテッドブルワリーズのビールが好きだ。」や、「私はライオンネイサンのほうが好きだね。」という会話が行われることはほとんどない。
「私はトゥーイーズが好き。」といった感じや、「私はカスケードが好き、特にカスケードのプレミアムラガーが。」等と、ブランド名での会話が殆どである。
また、自分が好みのブランドを作るブルワリーがどの企業に保有されているかを知らない人も少なくない。