- オーストラリア国内ビール販売シェア1位の超大手醸造会社(麦酒市場シェア約42%)
- 親会社は日本のアサヒグループホールディングスで100%子会社となる
- ビクトリアビターやフォスターズラガーをはじめとする豪ビール有名ブランド多数を保有
カールトン&ユナイテッドブルワリーズ(CARLTON & UNITED BREWERIES)概要
カールトン&ユナイテッドブルワリーズは、オーストラリアのビクトリア州、メルボルンに本拠地を置き、ビールを中心としたアルコール飲料を製造する超巨大企業。オーストラリア国内のビール、マーケットシェア1位を獲得している。
親会社は日本のアサヒグループホールディングス。
下の「カールトン&ユナイテッドブルワリーズの歴史」で詳しく説明するが、かつてはフォスターズグループ(FOSTER’S GROUP)という社名で、これはオーストラリアのビールとして世界的に認知度の高いフォスターズラガー(Foster’s Lager)というビールの名前から採用された。
*フォスターズグループという企業名からフォスターズラガーを作ったのではない。フォスターズラガーがよく売れているので社名をフォスターズグループにしたのだ。
このフォスターズグループ、かつては純粋なオーストラリアの企業であったため国民の受け、認知もよかったが2011年フォスターズグループが保有していた最大の醸造所の名前「カールトン&ユナイテッドブルワリーズ*」を社名に採用し、以後その名が現在も利用され続けている。*カールトン&ユナイテッドブルワリーズは「CUB」と略して記載される。
このころまでCUBの国内認知は大変に良く経営も安定しているように見受けられたがこの後からこの企業はかき乱された。
2011年の12月、当時醸造会社世界最大手の1つ、イギリスに本社を持つエスエービーミラー(SAB Miller)によって買収されるとその後の2016年10月、今度はエスエービーミラーが世界最大の酒類メーカー、アンハイザー・ブッシュ・インベブ(Anheuser-Busch InBev N.V.)により買収される*、さらに2019年の7月に日本のアサヒグループホールディングスによる買収合意、2020年買収完了、されその後は安定した経営が続いている。
*アンハイザー・ブッシュ・インベブのエスエービーミラ買収により、エスエービーミラはこの世から消滅した。
詳細は下の歴史に追いての項目を参照ください。
さてこのCUB、上記の通りオーストラリア国内でのビールシェアは第1位なのだが、その名に恥じることなく、とり取り扱うブランドも果てしなく多い。世界的に有名なフォスターズラガー(Foster’s Lager)を始めオーストラリア国内で最も有名なビール銘柄、ビクトリアビター(Victoria Bitter)、 通称VB(ブイビー)やカールトン(Carlton)シリーズ、また近年爆発的人気を見せるクラフトブルワリーの買収による保有銘柄の拡大など、多くのビールファンを虜にしている。
CUBがかつてまだフォスターズグループだったところ同社が保有するメジャーブルワリーは2つのみで、1つが「カールトン&ユナイテッドブルワリーズ(通称”CUB”)」、もう1つが「カスケードブルワリー」であった。そしてCUBからは非常に多くのブランドが製造されている。という構図が出来上がっていた。
現在では特定のブルワリーで特定の銘柄のみという分け方は難しく、CUBそのものも保有ブランドを公開している状況となる。以下CUBが保有するブランドとなる。(2024年現在)
カールトン&ユナイテッドブルワリーズ所有のビールブランド
フラグシップ
- フォーパインズ(4Pines)(クラフトブルワリーの保有)
- バルター(Balter)(クラフトブルワリーの保有)
- ヴィクトリアビター(VICTORIA BITTER)(通称、ブイビー(VB))(シリーズ)
- カールトン(CARLTON)(ブランド、カールトンシリーズの展開)
- カスケードCascade(カスケード)(メジャーブルワリーの保有)
- クラウンラガーCROWN LAGER(クラウンラガー)(単品)
- グレートノーザンブルーイング コー(Great Northern Brewing Co.)(ブランド、グレートノーザン シリーズの展開)
- グリーンビーコン(Green Beacon)(クラフトブルワリーの保有)
- マチルダベイ(Matilda Bay)(クラフトブルワリーの保有)
- マウンテンゴート(Mountain Goat)(クラフトブルワリーの保有)
- ピュアブロンド(PURE BLONDE)(ブランド、ピュアブロンドシリーズの展開)
- ヤック(YAK)(クラフトブルワリーを保有)
*ビール以外のブランドは省いて紹介
廃版のブランド
- アボッツフォード(ABBOTSFORD)(単品)
- パワーズ(POWER’S)(シリーズ)
- ケービーラガー(KB LAGER)(単品)
- エヌティードラフト(NT DRAUGHT)(単品)
- シーフスタウト(SHEAF STOUT)(単品)
- レシャスピルスナー(RESCHS PILSENER)(廃版かどうか未確定確認中 2024年現在)
- メルボルンビター(MELBOURNE BITTER)(廃版かどうか未確定確認中 2024年現在)
簡単ではあるがアサヒグループホールディングズの保有するブルワリーや、ビール銘柄などの関係を示したのがした図である。
カールトン&ユナイテッドブルワリーズの歴史
カールトン&ユナイテッドブルワリーズの起源は1888年、2人のアメリカ人兄弟、ウィリアムフォスターと、ラルフフォスターがニューヨークからオーストラリア、メルボルンへやってきてフォスターズブルアリー(Foster’s Brewery)を立ち上げた事に始まる。
フォスター兄弟がオーストラリアへやってくるしばらく前の1854年、オーストラリアでは最も有名なビール、ビクトリアビター(Victoria Bitter)通称VB(ブイビー)が同じくビクトリア州のビクトリアブルアリー(Victoria Brewery)で生産を始めていた。
ブイビーは大量生産のビールとして成功をおさめ、追従するメーカーは何とか牙城を崩したいと考えていた。
ビクトリアブルワリーの創業から時を少し後にした1864年にはCarlton Brewery(カールトンブルアリー)がこちらも同じくビクトリア州のメルボルンにて創業を開始、カールトンブランドとしてビールを広く販売していった。
そんな市場争いの激しい所にフォスター兄弟はやってきたのである。
彼らはアメリカ国内でその当時としてはまだ珍しい冷蔵庫を取り扱っており、比較的温暖な気候であるオーストラリアでのビール醸造に冷蔵庫が有利だと考えていた。フォスター兄弟の思惑はあたり、ビクトリアブルワリー、カールトンブルワリーとともに、フォスターズブルワリーも同じ年代に大成功を収めた。
時代は流れ1907年、メルボルンに存在するフォスターズブルアリー、ビクトリアブルアリーとカールトンブルアリーの3社に加え、更に3つの会社、シャムロックブリュワリー(Shamrock Brewery) 、マククラッケンブリュワリー(McCracken Brewery)、カッスルメインブリュワリー(Castlemaine Brewery)の計6社が合併しカールトンアンドユナイテッドブルアリーズ(Carlton & United Breweries)通称をシーユービー(CUB)を立ち上げ、1913年には株式会社とし広く一般に株式が公開された。
CUB形成の一般に対する名目はビクトリア州のアイコンとして、広く皆様に愛され、安定した商品の供給をし、などと言われたのだが実際には1903年に上記6社でカルテルが結ばれており、その目的は価格のつり上げ、市場支配による利益追求によるものだった。
CUBはその後、着々と企業買収を続けて大きく成長をとげていった。
CUBが大きく力をつけていく一方、別の分野においてもオーストラリア国内を代表する多くの巨大企業が誕生していった。
エルダーズ アイエックス エル(Elders IXL)もその一つの企業である。
エルダーズIXLはもともとエルダーズ(Elders)という巨大コングロマリットがヘンリージョーンズ アイエックスエル(Henry Jones IXL)を買収して形成されたもので、企業買収を続けることで飲食、畜産、金融、各種材料を始めとした様々な分野へ幅広く事業を展開していた。
ちなみにIXLは、I excel.(私は優れている)の略だといわれている。
1983年、今まで企業買収を続けてきたCUBが逆にElders IXLにより買収される事となった。 経緯はこうだ。
もともとCUBはエルダーズIXLの半数近くの株式を保有しおり多くの影響を与えていた。その一方でエルダーズIXLはその関係を好ましく思っておらず、何とかCUBの影響力を排除したいと考えていたがその方法を見いだせないでいた。
1983年オーストラリアの投資会社インダストリアル エクイティー リミテッド(Industrial Equity Limited)、通称 アイ イー エル(IEL)がCUBの買収に乗り出すと表明した。エルダーズIXLの約半数を保有しているCUBが乗っ取られた場合その影響がエルダーズIXLに及ぶのは容易に想像できた。
早急な対応を迫られたエルダーズIXLはやむなく1億ドル近くの資金を早急に集め、CUBの買収を表明、実行したのであった。
エルダーズIXLにとってこの買収が大成功に終わったのは、CUBの株式を取得できた事に加え、CUBがもともと保有していた株式の取得も同時に行えた事だった。そのなかにはエルダーズIELを含め、その他多くの企業のまとまった株式があった。
さらに、もともとCUBの影響力を排除したいと考えていたこと、またいずれはビールの分野に進出したいと考えていた事が同時に実現できたのであった。
その後エルダーズIXLはビール分野をコアビジネスと捉えるようになり、いらない分野の株式を売却。身軽になった会社は、さらにビール分野に注力し、その戦略のなかでカールトンアンドユナイテッドブルアリーズのフラグシップ銘柄、フォスターズラガーを世界進出の起爆剤として活用することとした。 とりわけアメリカ、カナダ、イギリスへの進出を当初の目標としており、現地にあるビール製造会社を買収していった。
CUB買収にあたってエルダーズIXLはエルダーズ ブルーイング グループ(Elders Brewing Group)とその名前を変更した。
1990年には日本のビールメーカー、アサヒがエルダーズIXLの株式19.9%を取得。アサヒスーパードライがオーストラリア国内で販売されるようになった。
さらに同じ年、エルダーズブルーインググループは世界的に大成功を収めた同社商品、フォスターズラガー(Foster’s Lager)にならって、その社名をフォスターズグループ(Foster’s Group)へと変更、フォスターズグループの名前はオーストラリア国内に大変浸透した。
2005年には当時のオーストラリアのワイン最大手企業、サウスコープ(Southcorp)*1を傘下に収めると、ワインの売上でも世界一を叩き出すようになり、企業の売り上げも10億豪ドルを超えた*2。 しかしその後ワイン部門の営業成績は振るわず、何とかワイン事業を切り離したいと考えるようになった。
結果、フォスターズグループのワインディビジョン「トレジャリー・ワイン・エステート部門」は2011年に別会社され、新たにトレジャリーワインエステート(Treasury Wine Estates)という企業が誕生、ワインにかかわる全機能が移管された。
*1当時のレート(は1豪ドル約84円)
*2当時サウスコープはオーストラリアで最も有名なブランド(ワイナリー)、ペンフォールズ(Penfolds)を保有していた
2011年にワイン部門を切り離すと、同じ年の5月に社名を現在のカールトン&ユナイテッド・ブリュワリーズ(CUB)へと変更した。
実はフォスターズグループは他の巨大企業による買収の対象になるのではないかという憶測がこれまでに何度もわたり発生していた。そのような関心を表明してきたグ企業は英国と南アフリカの超巨大飲料メーカーであるエスエービーミラー(SAB Miller)、モルソン・クアーズ、ディアジオ、ハイネケン・インターナショナルなどがあった。そして、その噂を打ち消すことはできず同年9月イギリスビールの大手、エスエービーミラー(SAB Miller)への売却に合意、12月に承認、99億豪ドル*にて売却、2011年12月20日の取引終了時に上場廃止となった。
1当時のレート(は1豪ドル約80円)
SABミラーによる買収から5年後の2016年、今度はSABミラーが世界最大の酒類メーカー、アンハイザー・ブッシュ・インベブ(Anheuser-Busch InBev)*により買収され、結果CUBの親会社がSABミラーからアンハイザー・ブッシュ・インベブ(「ABインベブ」と略される)へと変更された。
*アンハイザー・ブッシュ・インベブ(Anheuser-Busch InBev)めちゃくちゃかっこいい名前じゃないですか?
アサヒグループホールディングスのカールトン&ユナイテッドブルワリーズ買収
2016年にABインベブにより買収されたCUB、オーストラリア国内での経営は順調だったもののABインベブの世界的な苦戦は続いていた。SABミラーの買収により当時10兆円規模と言われた費用による負債のふくらみや財務体質の改善などの遅れもありオセアニア地区の酒類メーカーの切り離しを検討していた。そこに当時世界中のアルコール飲料企業買収を進めていたアサヒグループホールディングスとの思惑が一致したのだ。2019年7月にABインベブとの買収に合意、翌年2020年6月に買収が完了した。
買収金額はアサヒとして当時最大の160億豪ドル、日本円にして約1兆1500億円に上った。
このころのアサヒは日本国内他の大手酒類メーカに比べて海外の展開が遅れていた。日本での酒類販売は当時頭打ちで縮小を続けており、慌てたアサヒはヨーロッパを中心に飲料メーカーやパブ等の買収を進めていたが更なるエリア、高利益率をもたらす企業の模索を続けていた。そこへ当時ずば抜けて高い利益率をもたらしている企業、カールトン&ユナイテッドブルワリーズが目に留まることになる。新たな市場への挑戦だった。
実は2016年、すでに日本のキリンはオーストラリア国内ビールシェア2位のライオンを買収しており、遠く離れたここオーストラリアでも日本のビール会社2強による戦いが勃発したのである。
この買収が成功となるか、5年後、10年後に答え合わせをしよう。