「ヘイジー」なビールとは、ビールの色合いが透き通った透明なものではなく、濁っているものを指す。一般的には明るい黄色や明るいオレンジ色を呈すことが多い。
ヘイジーは英単語の「Hazy」(発音:héɪzi)をそのまま日本語読みにしたものである。
英単語 Hazyの意味としては、
- かすんだ、もやのかかった
- 物事がはっきりしない、あいまいな、漠然とした
などがある。
本ページではビールにおける「ヘイジー(Hazy)」について歴史、意味合い、代表的な銘柄について説明していく。
アメリカ、ニューイングランド地方で発祥のHazy IPA
ビール業界における「ヘイジー(Hazy)」という言葉の起源は2004年、アメリカのバーモント州、ウォーターベリー(Waterbury)*にあるアルケミスト醸造所(Alchemist)のジョン・キミッヒ(John Kimmich)によって造られた、ヘディー・トッパー(Heady Topper)であると言われている。
*下地図はバーモント州、ウォーターベリーの場所
アルケミスト醸造所が存在するニューイングランド地区*には多くのクラフトブルワリーやビール愛好家たちが集っているが、ヘディー・トッパーはその後、この地域のIPA醸造に大きな影響を与えた。
それによりこのビールをリスペクトしたビール、強く濁ったIPAが当地域で数多く登場するのだが、それらは「ヘイジー 」や 「ジューシー 」と形容されるようになった。
もちろんそれ以前にも濁ったビールは存在していたが、それまではクラウディー(cloudy)やマーキー (Murky)という表現が一般的であった。しかしこの「ヘイジー」というスタイル表現は語呂もよく、キャッチーでクールな印象も併せつことから、醸造家、作家のコミュニティ、ビール愛飲家たちの間で好んで利用されるようになった。そして「ヘイジーIPA」という言葉に加え、この地域生まれたことを示唆する「ニューイングランドIPA」も同意語として使われるようになり、それらは2010年頃にこの地域で定着していった。
さらにこの「ヘイジー」と言う表現はその後アメリカ全国へ波及するだけでなく、全世界でも広く利用されるようになっていった。
*ニューイングランド地区については本ページ一番下にて説明
ニューイングランドのヘイジーなIPAは次第に1つのスタイルにまで定着し現在では「ニューイングランドIPA = ヘイジーIPA」として広く認知されている。特徴としてはもちろんその名の通り、濁りが強い事、明るい黄色からオレンジ色の華やかな色合い、強烈なるフルーティーな味わい、しっかりとしたボディーに加えて飲みやすさ、6%~8%の高めのアルコール度数が特徴となる。 ちなみにビアスタイルの正確な分類ではニューイングランドIPA、ヘイジーIPAはIPAのサブスタイルにカテゴライズされるが、これらも国や、ビール境界によって取り扱いは異なる。それでも広く一般にヘイジーIPA(ニューイングランドIPA)は1つのスタイルとして認知されていることが多い。
またこのニューイングランドスタイルIPAは祖の頭文字をとって「NEIPA」と表記されることもある。
Hazy IPA 正式なビアスタイルとしての登録
ヘイジーIPAは2018年に正式なビアスタイルとしてビール審査員認定プログラム(Beer Judge Certification Program (BJCP))及びブリュワーズ・アソシエーション(Brewers Association)に登録された。
それぞれの団体に関する特徴を簡単に紹介する。
- 審査員認定プログラム(Beer Judge Certification Program (BJCP)):
BJCPは1985年にアメリカ合衆国で設立された団体で、ビール審査員の認定及びランク付け、その質の向上、ビールリテラシーの普及などを主な目的として活動している
現在では世界中で広く認知されており、特に本団体で策定されるビアスタイルのガイドラインは、ビールの評価基準として国際的にも広く利用され、商業的なビール審査や教育の場でも用いられている。
そのほか、世界中で開催される国際的な認定試験の実施やホームブルーコンペティションの審査ガイドラインの策定なども行う。
日本国内では、ビール業界やクラフトビール愛好家の間でBJCPはビアスタイルのガイドラインを作るところとして認知されている。
https://www.bjcp.org/ - ブリュワーズ・アソシエーション(Brewers Association):
ブリュワーズ・アソシエーションはアメリカの小規模で独立したクラフトビール醸造所を代表する非営利団体で2005年にアメリカ合衆国で設立された。クラフトビール醸造者やビール愛好者の利益を擁護し、クラフトビール普及の促進を主な活動としている。
そのほか、教育ツール、市場調査、ベストプラクティスのガイダンス策定など、醸造者向けのリソースを提供したり、グレート・アメリカン・ビア・フェスティバル(Great American Beer Festival)やワールド・ビア・カップ(World Beer Cup)などの大規模なビールコンペティションを主催し、クラフトビール文化の発展に貢献している。
日本国内においてもビール業界や、ビール愛好家ではその存在は広く認知されている。
https://www.brewersassociation.org/
ヘイジー(Hazy)なビールの種類
ヘイジーという表現はニューイングランドのIPAで利用が始まったことや、「ヘイジー IPA = ニューイングランドIPA」との認知あることから「ヘイジー」はIPAのみに利用されるべきだという意見がビール業界内や、ブルワー、ビール愛好家の中に根強くある。
しかしこの表現はほかのスタイルに広がる傾向にあり、良くも悪くも受け入れざるを得ない状況となっている。
「ヘイジー」と言う表現が広く用いられるようになった理由はキャッチーで消費者の目を引きやすく、マーケティング戦略によるところが大きい。クラフトビール界では従来のスタイルにとらわれない新たなビールの挑戦にも盛んで、濁り系ビールには「ヘイジー」を好んで用いる傾向にある。現在ではIPA以外にも、「ヘイジーペールエール」、「ヘイジースタウト」、「ヘイジーラガー」、「ヘイジーベルジャンホワイト」等多くのスタイルにヘイジーが登場している状況だ。
それでもやはり最も用いられるのはIPAに対してであることは変わりない。
以下簡単に各ヘイジービールの特徴を紹介しよう。
ヘイジービールの種類
- ヘイジーペールエール: ヘイジーペールエールは、通常のペールエールよりフルーティーでトロピカルなホップのアロマが際立つ。口当たりは滑らかで苦味は控えめ、ジューシーな味わいが楽しめる。
- ヘイジースタウト: 伝統的なスタウトの深い味わいに加えて、フルーティーな味わいを持つものが多い。基本的にはミドルからフルボディーのものが多いが、ヘイジーな要素により、より豊かな口当たりになる。
- ヘイジーラガー:軽やかなボディとクリアな味わいを持つラガーにフルーティでアロマティックな風味を持つ。豊かなホップの香りに加え、トロピカルフルーツやシトラスのニュアンスがあり、爽やかな飲み心地が楽しめる。
- ヘイジーベルジャンホワイト:伝統的なベルジャンホワイトビールに濁りが加わることで口当たりがより軽やかでクリーミーさが加わる。柔らかなフルーティーさと心地よい酸味のバランス程よく感じられる。ホップの苦味は控えめ。
アメリカを代表するヘイジー(Hazy)IPA
シエラネバダ ヘイジーリトルシング IPA
このニューイングランドスタイルのIPAすなわちHazy IPAで最も有名な銘柄を1つ挙げるとするならばシエラネバダ ヘイジーリトルシング IPA(Sierra Nevada Hazy Little Thing IPA)ではないだろうか。
アメリカ国内でもHazy IPAとはしては抜群の知名度を誇り、日本での知名度や入手のしやすさ等含め間違いない製品と言えよう。
しかし、実はこのビールを製造するシエラネバダ・ブルーイング・カンパニーは、西海岸のカリフォルニアに存在している。ニューイングランドスタイルという事にこだわればやはりニューイングランド地方からの選出が必要と言えよう。そこで本サイトイチオシのヘイジーIPAを紹介したい。
ツリーハウスブルーイングのジュリアス
ツリーハウスブルーイング(Tree House Brewing)(https://treehousebrew.com/)は、アメリカ、マサチューセッツ州に拠点を置くクラフトビールの醸造所た。特にヘイジーIPAが有名で、その独特の風味と高い品質から、アメリカ国内のみならず世界中で高い評価を得ている。多くのビール愛好家から「クラフトビールの聖地」の一つとして崇められ、訪れる際には長い行列ができることでも知られている。
このツリーハウスブルーイングが造るジュリアス(Julius)をアメリカで最高のヘイジーIPAとして推したい。
ジュリアス(Julius)はジューシーでトロピカルなフルーツの風味、滑らかな口当たり、そして見事なヘイジーなる外観が特徴だ。ニューイングランドIPAスタイルを世界に広めた立役者の一つとして知られ、一度飲んだら忘れられない強烈なインパクトを残す。
ちなみに本製品は公式サイトで「American IPA」と紹介されているが、同時に、公式が「Hazy IPA」とも表現している。アメリカのHazy IPAの銘柄ランキングでは常に上位に名前を連ねる、まごうことなきHazy IPAである。
ツリーハウスブルーイングやそれら製品について掘り下げていくとそれだけで何ページも必要となってしまうため、興味のある方は各自調べてみてほしい。
日本のヘイジービール
日本でも、クラフトビールの醸造所を中心に、多くのヘイジービールが醸造されている。有名なブルワリーやビールとしては、以下のようなものが挙げられるだろう。
- スプリングバレーブルワリー: ニューイングランドIPAをはじめ、様々なスタイルのヘイジービールを醸造しています。
- 箕面ビール: ヘイジーIPAやヘイジーペールエールなど、個性豊かなヘイジービールをラインナップしています。
- よなよなエール: クラフトビールのパイオニアとして知られるよなよなエールも、ヘイジービールを醸造しています。
これらのブルワリーは、定期的に新しいヘイジービールをリリースしているため、常に最新の情報をチェックすることをおすすめします。
ヘイジービールが濁る要因
ちなみにヘイジーなビールが濁る主な要因は、以下の4つが挙げられる。
- 原料: 小麦やオーツ麦などの副原料を使用することで、タンパク質や不溶性の成分が増えることによりビールが濁る。
- 製法: ホップを高温で煮沸せず、低温で長時間漬け込むドライホッピングを行うことで、ホップの油がビールに溶け込み光を乱反射させ、結果濁りが発生。
- 酵母: 酵母の働きによって、ビール中にたんぱく質やその他の成分が生成されることによる濁り。
- 無濾過:一般的にビールは出荷前、丁寧に濾過されることが多い。ヘイジーIPAやその他ヘイジーな製品は無濾過、または控えめな濾過により出荷される。
アメリカ ニューイングランド地区
アメリカのニューイングランド地区は、メーン州、ニューハンプシャー州、バーモント州、マサチューセッツ州、ロードアイランド州、コネチカット州の6つの州からなる地域でアメリカ発症の地*とされる。歴史的な街並み、美しい自然、そして豊富なシーフードが特徴で、アメリカの中でも特に人気の観光地である。
*イギリス人の最初の入植は1607年のバージニア州であり、ニューイングランド地区ではない
ニューイングランド地区は、アメリカにおけるクラフトビールの革新的な中心地の一つとして知られている。
小規模ながらも個性豊かなブルワリーが数多く存在し、地域の食材や水を使いテロワールを重視した実験的なビール造りが盛んに行われている。ニューイングランドの豊かな自然や歴史も、ビール造りにインスピレーションを与え、地域に根ざしたクラフトビール文化を醸成している。
ニューイングランドのビール文化は、日本はもちろん世界各地のビールシーンに現在でも大きな影響を与えている。