- ジンジャービール(ジンジャービア)は18世紀中ごろイギリスのヨークシャーが発祥であると言われる
- ジンジャーエールも19世紀初頭のイギリス発症となるが、1907年、カナダのジンジャーエール登場から急激に栄えた
- オーストラリア国内企業、バンダバーグは世界的に有名なジンジャービアメーカーの1つ
ジンジャービール(ジンジャービア)とジンジャーエール
ジンジャービール(ジンジャービア)とは
ジンジャービールはイギリスを発祥とする、ショウガ、砂糖、水、そして酵母を使って作られる発酵飲料である。
一般的には炭酸入りでノンアルコールのイメージが強いが、アルコールを含むものも存在している。その昔は炭酸が無いものも存在していたが、現在では基本的に炭酸飲料とされている。
ジンジャービールは「ジンジャービア」とも表現されており、本サイトではどちらも同じ意味で取り扱う。
本サイトでジンジャービールを紹介する理由は、オーストラリア国内に世界有数のジンジャービールメーカーであるバンダバーグ・ブリュード・ドリンクス(Bundaberg Brewed Drinks)(通称「バンダバーグ」)という会社が存在することや、オーストラリア国内では大変ポピュラーで清涼飲料水だけではなく、多くのブルワリーからアルコール入りのものが販売されているためである。
ジンジャーエールとは
ジンジャーエールはアルコールを含まない生姜風味の炭酸飲料(清涼飲料水)である。ジンジャーエールが誕生したころはビール製法の1つえある「エール」という手法によって造られたことからジンジャーエールと名付けられた。
ジンジャーエールには醸造方法により2つのスタイルが存在しており、それぞれ「ゴールデンスタイル」「ドライスタイル(または、ペールスタイル)」と呼ばれる。
ゴールデンスタイル
ゴールデンスタイルのジンジャーエールは味が濃く、甘さとスパイシーさが強いのが特徴でである。さらにしっかりとしたショウガの風味がより強く前面に押し出されており、日本人からするとまさに王道な本格スタイル、本物のザ・ジンジャーエールと言う印象を受ける。イギリスではこのゴールデンスタイルが一般的である。
ドライスタイル(ペールスタイル)
ドライスタイル(またはペールスタイル)のジンジャーエールは味が軽く、比較的甘さが控えめと言われたが最近はその限りでもない。このスタイルはまず北米で一般的に広まったが現在では世界中で愛され、清涼飲料水のジンジャーエールはこのスタイルに属する。代表的なブランドにカナダドライ(Canada Dry)やスウェップス(Schweppes)などがあげられる。
ジンジャービール(ジンジャービア)及び ジンジャーエールの歴史
ショウガ
生姜はマラバル沿岸やモルッカ諸島あたりが原産と考えられているショウガ科ショウガ属の多年草植物で、歴史上最も古いスパイスのひとつとされ、その歴史は5000年以上にも遡り、「病気」に効く強壮の根として活用されてきた。
18世紀後半:ジンジャービール、アルコール飲料としての誕生
ジンジャー・ビールが最初に作られたのは、植民地時代の香辛料貿易が行われていた1700年代(18世紀)の中ごろ、イギリスのヨークシャーであると伝えられている。この頃すでにカリブ海に入植していたイギリス人は、同地域で育てられている砂糖とショウガに水を加え発酵させることで、炭酸が生成され、爽やかで活力を与える飲み物ができることを発見していた。発酵に使われたのは、通称「ジンジャーバグ(ginger bug)」と呼ばれるバクテリアと酵母の共生体である。これはすりおろした生姜、砂糖、水に、レモンジュースやレモンの皮、クリームタータ(酒石酸クリーム)を混ぜたものを室温で数日間発酵させることにより生成された。時にはオプションとして各種スパイスを含むこともあった。
この頃のジンジャービールはアルコールを含むもののみが存在しており、ショウガには消化促進や風邪予防などの効果があると考えられていたため、薬用飲料としても活用されていた。
「ジンジャーエール」という言葉は、この当時まだ世に登場していなかった。
18世紀~19世紀:イギリス庶民から世界への広まり
18世紀後半から19世紀になると、ジンジャービールはイギリスで大変ポピュラーな飲み物となっていった。アルコールを含むものはパブや居酒屋でよく飲まれたり、広く一般家庭で作られることもあった。19世紀には、ジンジャービールはイギリスの植民地と共に世界各地に広待っていった。オーストラリアやニュージーランドでは、ジンジャービールは特に人気のある飲み物となったのである。
1851年、イギリスにてジンジャーエールが誕生
1830年代頃 *1 からイギリス国内でその製法からジンジャービールはしばしば「ジンジャーエール」とも呼ばれるようになったがこの名称の普及を決定づけたのは1851年、製品として初めてこの世に誕生したジンジャーエールである。
ジンジャーエールは、ダブリン生まれのアイルランド人、外科医・薬剤師のトーマス・ジョセフ・カントレル(Thomas Joseph Cantrell)によって発明された *2。
トーマス・ジョセフ・カントレルはイギリスのベルファスト(Belfast)という街にある化学メーカー、グラッタン社(Grattan and Company)に勤め主要なポジションに就いていた。グラッタン社は同社が手掛ける薬効に基づくソフトドリンクの開発もしていたが、この中でトーマスはショウガを使った炭酸飲料の開発を進めていた。
この時のジンジャーエールはジンジャービールと同様、発酵によって造られたが、アルコールは含まず、また発酵では足りない炭酸を人工的に二酸化炭素を添加することで補った。それでも深い色合い、しっかりとした甘さ、ショウガのスパイシーな味わいに加え強烈な炭酸が特徴的で瞬く間に人気の清涼飲料水となった。そしてこの製法が後に「ゴールデンスタイル」として広まっていくこととなる。
1850年代、ジンジャーエールはイギリス国内で一般的に利用される呼称となり、ジンジャービールと合わせ、どちらも広く使われるまでに浸透した *3。
*1: 1835年発行のイギリスの料理本には、「ジンジャーエール」のレシピが掲載された。また1850年代のイギリスの新聞には、「ジンジャーエール」を販売する広告が掲載されているのが確認されている。
*2: トーマス・ジョセフ・カントレルを「アメリカ人」と紹介サイトが多数存在するがこれは誤りである。これはWikipedia内でトーマスがアメリカ人として誤って紹介されており、その情報を引用している人が多いためと考えられる。彼は、1827年にアイルランドのダブリンで生まれたアイルランド人である。
*3: 1850年代のイギリスの新聞には、「ジンジャーエール」を販売するという広告が掲載された。
1907年 カナダドライ・ジンジャーエールの誕生
イギリス国内で爆発的人気を獲得したジンジャーエールはほどなくして大西洋を渡りアメリカ国内でも知られるようになった。
アメリカ大陸で最初にジンジャエールが製造されたとされるのが1890年である。
カナダのオンタリオやニューヨークで薬学を学んだ、薬剤師かつ科学者でもあるジョン・マクローリン(John McLaughlin)*4 は、1890年、カナダのトロントにJ.J. マクローリン製薬(J.J. McLaughlin Limited Manufacturing Chemists)という会社を設立。カナダ国内に向け、清涼飲料水やそれらに関わる機器を製造・販売していた。
ジョン・マクローリンは会社設立と同時にアルコールを含まないジンジャーエールの開発にも取り掛かり、同じ年の1890年には最初の製品であるマクローリン・ベルファスト・スタイル・ジンジャーエール(McLaughlin Belfast Style Ginger Ale)の開発に成功。ジンジャーエールが最初に発明されたイギリス、ベルファストのゴールデンスタイルにこだわりを見せた。また各ボトルのラベルには、カナダの地図とカナダの国獣であるビーバーが描かれた(下図)。
1895年には当時国内の主要ニュース紙 The Globeにて「愛好家に好まれる本物のジンジャーエールである。」と評されるまでに成長、ジョン・マクローリンの造るジンジャーエールは甘みが強く濃い目の味わいで大きな人気を獲得していた。
*4: McLaughlinは日本語で「マクラフリン」とも記載される
元々はゴールデンスタイルにこだわっていたジョン・マクローリンであるが1904年にジンジャーエール抽出エキスの開発に成功、水にこのエキスや炭酸を混ぜることによりジンジャーエールが簡単に製造できるようになった。そしてこのタイミングでレシピを大きく変更し新作をリリース。新製品は「カナダ・ドライ・ペール・ジンジャーエール(Canada Dry Pale Ginger Ale)」と名付けられた。
このジンジャーエールは名前に付く「ペール」が示す通り、濃い色を薄くし甘みを抑え、そこに「ピリッ」とした生姜の刺激も加えることにより、シャープでドライな味わいを実現、ジョン・マクローリン自らが「ジンジャーエールのシャンパン(The Champagne of Ginger Ales)」と評するほどの出来栄えとなった。この「カナダ・ドライ・ペール・ジンジャーエール」は瞬く間に人気を獲得し大成功をおさめた。
1905年にはJJ・マクローリン リミテッド(J.J. McLaughlin Limited)という会社を立ち上げすぐに特許の申請を開始。
1907年に「カナダドライ・ジンジャーエール」の名のもの特許の取得が完了した。
この高い品質と味わいはカナダ総督にも認められ公式な供給者として(カナダ総督に)納入された。
新しいジンジャーエールは「ドライスタイル」として広まり、古くからのゴールデンスタイルの人気をはるかにしのぐまでに成長、特にアメリカの禁酒法時代(1920年~1933年)には、ノンアルコールで楽しめる嗜好品として、また密かに提供されるウイスキーやラム酒などを割るミキサー(水や、トニックウォーター等、割るもの)としても大変ポピュラーになった。
ちなみに現在のカナダドライは、ドクター・ペッパーや、7 up(セブンアップ)などの飲料を手掛けるアメリカの清涼飲料水超大手、キューリグ・ドクター・ペッパーという企業の傘下で経営を続けている。
19世紀後半~20世紀初め:ノンアルコールのジンジャービールの登場
ノンアルコールのジンジャービールの登場時期について明確な記録は無いものの、一般的には19世紀後半から20世紀初頭にかけて徐々に広まったとされている。イギリスにおいて1855年に酒税法が制定された際にジンジャービールのアルコール含有量が2%に制限されるという事が起こった。この法律により、低アルコールまたはノンアルコールのジンジャービールが一般的になり、結果としてノンアルコールのジンジャービールが広まった。
20世紀には健康志向の高まりや、公共の場での飲酒規制の強化などの理由もノンアルコールジンジャービールの普及に拍車をかけた。
ジンジャービール、ジンジャーエールの今
現在、ジンジャービールはアルコール入りのもの、アルコール無しのもの、いずれも世界中で広く認知され楽しまれている飲み物へと発展していった。様々なフレーバーや製法のものがあり、カクテルの材料としても大変人気がある。
アルコールが含まれないものでもジンジャー「ビール」と名乗っているため、基本的にはアルコール入りかそうでないかをラベルで明確にしているものが多い。
製法において言うと、本来は酵母による発酵にて造られる(醸造で造られる)ものとされるが、実際は多くの飲料メーカーが清涼飲料水と同等の工程にて製造している。このあたりにおいてジンジャー・エールとの境界はかなりあいまいである。
ジンジャーエールについていうと、単に「ジンジャーエール」といえば一般的にはドライスタイルを指すことが多く、よほどこだわったお店でない限りは本格的なゴールデンスタイルのジンジャーエールを目にすることは少ない。またゴールデンスタイルのジンジャーエールと謳っておきながらも商業生産による製造、炭酸水にショウガエキス、糖類、香料、着色料や保存料を混ぜて作る方法が多く取られている。そのためゴールデンスタイル、ドライスタイルという表現自体も減少傾向にある。
世界に目を向けると、カナダ・ドライやウィルキンソンなどの大手の人気が高い一方で健康志向やこだわり派のニーズを埋めるクラフトジンジャーエールの台頭や一方で低アルコールを含むものも存在している。
同様に、ジンジャービールとの垣根はかなり薄れてきている状況だ。
ジンジャーエール誕生の歴史に関する各種ソース:
https://www.belfastentries.com/places/cantrell-cochrane/
https://www.thoughtco.com/history-of-ginger-ale-1991780
https://www.backthenhistory.com/articles/the-history-of-ginger-ale
https://www.historyoasis.com/post/history-ginger-ale
https://www.athirstforfirsts.co.uk/post/first-fizzy-ginger-ale
https://www.thecanadianencyclopedia.ca/en/article/john-j-mclaughlin
https://www.blogto.com/eat_drink/2014/03/how_canada_dry_ginger_ale_was_invented_in_toronto/
ジンジャービールとジンジャーエールの違い
上記の通り、現在においてジンジャービールとジンジャーエールの垣根はかなりあいまいになってきており、各メーカーが「これはジンジャービールである。」と主張すればそれは製法や味わいがどのようなものでもそういうものである、という状況になっている。
上記の説明の中でおおよそその違いは説明されているが、ここでは今一度、一般的に認知されている違いを一覧で紹介したい。
製造方法
- ジンジャービール:
ジンジャービールは伝統的に発酵によって作られるものとされる。ショウガ、砂糖、水、酵母を発酵させることで炭酸が発生する。またこの発酵プロセスによりアルコールが生成される。現在は日本含め、世界的にアルコール入り、アルコール無しどちらのものも一般的に販売されいる。 - ジンジャーエール:
ジンジャーエールは、発酵させず商業的に製造されるものが多い。炭酸水にショウガエキス、砂糖、水、香料などを混ぜて作られ、基本的にアルコールは含まない清涼飲料水である。
味と風味
- ジンジャービール: 一般的にジンジャービールは、ジンジャーエールよりもスパイシーで、しっかりとしたショウガの風味、辛みがあるとされる。また発酵によって生まれる微炭酸によりやさしい口当たりとなる。
- ジンジャーエール: ジンジャーエールは、ジンジャービールよりも甘く、ショウガの風味はかなり控えめでマイルドなものとなる。炭酸が強く、人工的な甘味料が使われていることも多いです。
オーストラリアを代表するジンジャービア
バンダバーグ ジンジャービア
オーストラリアを代表するジンジャービアといえばバンダバーグジンジャービア以外には存在しないだろう。
販売する企業は1960年創業、バンダバーグ ブリュード ドリンクス(Bundaberg Brewed Drinks Pty Ltd)という名前で、クイーンズランド州バンダバーグという小さな街を拠点とする現在でもなお家族経営の超オーストラリアンドメスティックな企業だ。ノンアルコール飲料を中心に世界61カ国以上で販売を手掛けており、中でも本ジンジャービアは世界的に有名な製品となる。
クイーンズランド州はショウガの生産が有名でオーストラリア国内のおよそ8割を生産していると言われている。自社の農場も構えるバンダバーグはこの良質なショウガに加え甘味料としてサトウキビを使用、本物の酵母による伝統的な醸造により3日間発酵された後に製品となる。ノンアルコールである本企業の製品は大人から子供までゴクゴクと飲める本格的じゃジュースとしてだけでなく、各種カクテルにも幅広く利用される。
日本ではAmazonなどのオンラインだけでなく現在は量販店で販売される。
嫌味のないすっきりとそれでいてしっかりとした甘みに天然の炭酸、そこにしっかりとした強めの生姜風味は一度飲んだら忘れられない味となる。
かつてはオーストラリアの定番お土産とされたが、現在は日本の量販店やAmazonなどのオンラインでもお手軽に購入可能となっている。