MENU

ビクトリアビター(Victoria Bitter)(VB)

ビクトリアビターのマーク
  • オーストラリアビール界を支配する最も有名な銘柄。2004年、最もシェアを獲得していた時は本製品のみでビール全体のうち25%の売り上げがあったが2024年現在はシェア1位の座を他製品に譲っている。
  • 1854年に製造開始。現在は豪州ビールメーカーシェア1位、超大手のカールトン&ユナイテッドブルワリーズにて生産されている
  • 日本のビールとはやや異なりワイルドで香ばしい。日本人にもうけが良い。
目次

基本情報

ビクトリアビター(ブイビー)(VB)
ビクトリアビター(ブイビー)(VB)
Sited from https://cub.com.au/
名称ビクトリアビター(Victoria Bitter)
産地ビクトリア州 メルボルン
ビアスタイルラガー
アルコール度数4.9%
IBU25 (公式発表無し)
EBC (SRM)13 (7) 前後(公式発表無し)
タイプフルストレングス
醸造所カールトン&ユナイテッドブルワリーズ
Carlton & United Breweries (CUB)(通称「CUB」)
ビクトリアビター(ブイビー)(VB)
ビクトリアビター(ブイビー)(VB)

ビクトリアビター(VB)概要説明

ビクトリアビターはオーストラリア最大のビール醸造所カールトンアンドユナイテットブルワリーズ(通称「CUB」)にて醸造されるオーストラリア国内では最も有名かつトップレベルのシェアを持つビール。
英語表記はオーストラリアビクトリア州を意味する「Victoria」から来ているため日本語表記では「ヴィクトリアビター」や「ヴィクトリア・ビター」と記載されることもある。
略称は日本国内では「ブイビー(VB)」、オーストラリア国内では英語発音にて「ヴィービー」とよまれる*。
*本サイト内では「ビクトリアビター」も「ヴィクトリアビター」も本ページにて記載する同一製品を表している。

ビアスタイルで「ビター」と言えば一般的には上面発酵のペールエールに属するものとなる。本製品も名前に「ビター」が含まれているが実は下面発酵で醸造されるフルストレングスのラガースタイルのビールとなる。(「詳しくはビールの種類のページ」ビター(Bitter)の項目を参照)
同様にその商品名「ビター」とつくものの、実際には「ビタービール」に分類されず「ラガー」タイプである、というものがオーストラリア国内には多数存在する。
(と言うよりオーストラリア国内では名前に「ビター」がついてもそれは「ラガー」だと思ったほうがよいくらいだ。)

ビクトリアビター(VB)の歴史

ビクトリアビター考案者
ビクトリアビターの発明者 トーマス エイキントン
Sited from : https://www.victoriabitter.com.au/history
(ビクトリアビターのウェブサイトより引用)

ビクトリアビター(ブイビー(VB))は1854年、トーマス エイトキン(Thomas Aitken)によって生み出された。1821年スコットランド生まれの彼は1842年にオーストラリアビクトリア州にやってきた。
当時ビクトリア州には醸造所が存在しなかったため彼の周りで飲まれているビールは個人で独自に造られるか、他の州より時間をかけて運ばれてくる物しかなかった。
その為、ビールの品質は非常に低く彼はそれにうんざりしていた。
思い立たったトーマス エイトキンはビクトリア州で最初の醸造所となるビクトリア・ブルワリー(Victoria Brewery)を立ち上げすぐにビクトリアビターを開発した。
その当時、今と殆ど変わらないレシピで作られたビクトリアビター(VB)は瞬く間に大人気となりビクトリア州全土に知れ渡っていった。
1900年代、人気は更に拡大、1960年代になるとテレビが一般家庭へ普及しそれとともにビクトリアビターのTVコマーシャルが開始、オーストラリア全土で爆発的な人気を獲得しその地位を不動のものへとしていった。
(ビクトリアブルワリーはその後現在の醸造所カールトン&ユナイテッドブルワリーズに買収され現在に至る。詳しくはカールトン&ユナイテッドブルワリーズ内の「カールトン&ユナイテッドブルワリーズの歴史」を参考に。)

ちなみにビクトリアビターの歴史を紐解くと時々トーマス シー ムーア(Thomas C. Moore)という人物の名前を耳にすることがあるが彼は誤って引用されその名残が現在まで続いてしまっているようで実際はビクトリアビターに関係がない。

ビクトリアビター(VB)のマーケットシェア

ビクトリアビター(VB)は、非常に多くの種類があるオーストラリアのビールの中で断トツ、圧倒的な売り上げを誇ってきた。
2004年の出荷量は全ビールのうち3分の1を占めていたり、2009年には10億ドル以上の売上をたった1製品で叩き出した唯一の商品となったり*、オーストラリア全ての州で売上げトップ3に入る唯一の商品であったりと、シェアNo1にまつわるエピソードは多く、オーストラリア国内では完全に支配的な地位を築きあげている。オーストラリア国内ビールの売上はそれぞれの州によってかなりの特色があり、ある州では非常に有名なビールでも別の州へ行けばはなかなか手に入らないなどといったことが起こる。そのためすべての州で売り上げトップ3位入る銘柄というのはほとんど存在しない。
*1秒に1ケース売れている計算になるそうだ

このVB、かつては「圧倒的・支配的なシェア、全ビールの出荷量のうち3分の1」等の表現に誤り、語弊は全くなく、事実そのものであった。
しかし、残念なことに現在これは大げさな表現となってしまった。
実はこのブイビー、2004年頃から急激にそのシェア、売上を落としていったのだ。

ヴィクトリアビター(VB) シェア縮小の理由

ビクトリアビター(VB)がシェアを落としていった理由は主に2つ+1つあるといわれている。
1つはビール業界内の変化だ。
かつてオーストラリア国内のビールはまさにVB一辺倒だった。右を見ても左を見てもどの飲み屋に行っても置いてあるものは全てVB。そして誰もが皆一様に何も迷うこと無く当然のようにVBを飲んでいたのである。

それが時代の流れとともに変わっていった。人々のビールに対する嗜好の変化やビール文化そのものが成長、成熟していった為だ。
1990年台頃から大手メーカーは様々なビールブランドを打ち出し、変化してゆく顧客ニーズに対応していった。
同時に1990年台終わりごろから2000年代最初にかけ極めて高いクオリティーを持つ、若手を中心とした新しいビール会社やクラフトブルワリーが続々と立ち上がり国内で急速に成長を遂げていった。
また同じころ成長が著しかったビールの分類、ミッドストレングス(Mid-Strength)と呼ばれる、ややアルコール度数を抑えたこのジャンルはオーストラリア人に広く受け入れられていった。
これらの理由により誰もがVBだけを飲んでいた時代は終わり、皆の嗜好が様々なビールへと向かっていった。結果相対的にVBのシェアは下がっていったのだ。

もう1つの理由はビール消費量そのものの低下である。
オーストラリア国内のビール消費量は1945年頃には全アルコール消費量のうち約80%を記録しているが2023年には半分以下の32.2% *となっており、現在最も飲まれているアルコール飲料はワインの方が圧倒的に多い(同43.9% *)。ビールの消費量低下のトレンドは依然として続いている。(単年で見るともちろん前年比増という年もある)
上記の通りオーストラリアの主要な産業の1つであったワイン業界の成長が著しい事に加え、主に若者向けとして売りだされる瓶入りカクテルを始めとしたその他アルコール飲料セグメントの急速な発展等が大きな要因となった。
VBだけを飲んでいた人々がどんどん他のアルコール飲料を飲み始めたのである。
*Source: Roy Morgan Single Source Australia https://www.roymorgan.com/

VBのシェア下落はその後も続きついに2012年、クイーンズランド出身の超メジャービール、ミッドストレングスのXXXX ゴールド(フォーエックスゴールド(XXXX Gold))にシェアナンバーワンを奪われるという事件が起こったのだ。
これはオーストラリア国内では大きなニュースになったほどだ。

2011年のマーケットシェアはVBの13.7% に対し XXXXゴールドが11.7% と迫っていた。
これが2012年3月時点でVBが12.3%、XXXXゴールドが 12.4% とついに逆転したのである。

XXXXゴールド(フォーエックスゴールド)のシェアNo1獲得は当時急速に成長を遂げるミッドストレングスセグメントの人気を裏付ける結果となった。
実はVBのシェア下落やミッドストレングスセグメントの急速な成長に対しカールトンアンドユナイテットブルワリーズは2007年にいち早くVB Gold(ブイビーゴールド)というビクトリアビターのミッドストレングス版を打ち出しXXXXゴールドのシェア拡大に対抗していたのである。
それでもVBのシェアナンバーワンを守り切ることは出来なかった。

VBと死闘を繰り広げたXXXXゴールド
Sited from https://www.xxxx.com.au/

実はVBがシェアNo1を守れなかった理由がもう1つあるのではないかと言われている。
それがレシピの変更である。
VBのアルコール度数はもともと4.9%であったがレシピの変更を受け、2007年にアルコール度数が4.8%に、また2009年には4.6%にまで引き下げられた。
レシピが変更された主な理由はアルコール度数によって課金される酒税に対し、消費者にリーズナブルな価格で提供を続けるためと言われている。
4.6%のアルコール度数は概ねオーストラリアビールの標準的な度数であることから、カールトンアンドユナイテットブルワリーズ(CUB)はアルコール度数を下げることによる人気の低下は特に見られなかったと発表している。
しかし実際は違った。多くのビクトリアビター・ファン(VBファン)がこれに反発、CUBに対し抗議を行ったり、デモ行進にまで発展する事態となった。実際に「味がまずくなった」と多くの人がVBを飲むことをやめてしまった。
これを重く見たCUBは2012年10月、オリジナルレシピを復活、同時にアルコール度数は再び元の4.9%へと引き上げられた。
メディアにもオリジナルレシピ復活を発表し、なんとか人気の下落に歯止めをかけようとしたのである。オリジナルレシピ復活もまたビール業界、ビール好きなものにとっては大きなニュースとなった。
その後、VBはなんとかシェアNo1を取り戻すもそれ以降はXXXX ゴールドとシェアNo1を競いあう状況が続いていた。

ビクトリアビター(VB)の迷走

ビクトリアビター、実は2007年頃から迷走を重ねていた。
まさにシェア1位の座を脅かされた王者が見せた焦りではないかと今では分析できる。

2007年、当時のメーカーであるフォスターズ(現CUB)は、当時急速な成長を続けているミッドストレングスビール市場の拡大に乗じるため、アルコール度数3.5%のVBミッドストレングス・ラガー(ブイ・ビー・ミッドストレングス・ラガー (VB Midstrength Lager))というその名もずばりなミッドストレングスバージョンを発売した。

ブイ・ビー・ミッドストレングス・ラガー
ブイ・ビー・ミッドストレングス・ラガー
Sited from https://www.victoriabitter.com.au/
ブイ・ビー・ミッドストレングス・ラガー
ブイ・ビー・ミッドストレングス・ラガー
Sited from https://www.victoriabitter.com.au/


2009年にはVBミッドストレングス・ラガーをVBゴールドという新しい名前に変更、2017年には公式アナウンス無しにアルコール度数を3%に下げる措置をとった。

VBゴールドと、XXXXゴールド
似すぎている印象を受けないだろうか。

VBミッドストレングスラガーや、VBゴールドのラベルはまさに、それこそやり過ぎではないかと思われるほど、XXXXゴールドを大きく意識していた(上写真、左がVBゴールド、右がXXXXゴールド)。2007年以降、ミッドストレングスのビールは既にXXXXゴールドによる独占状態となっており、VBのマーケットシェアを大きく脅かす存在になっていた。これを正面から狙い撃ちに向かったのだ(XXXXゴールドのアルコール度数もまた3.5%となる)。
フルストレングスのVBがすでにミッドストレングスのXXXXゴールドにシェアを迫られており、それを迎え撃つためにVBのミッドストレングスバージョンを慌ててリリースしたという形だ。まずはVBの迷走1つ目と言えよう。

2009年9月、さらに当時のメーカーCUBはミッドストレングスのみならず当時すでに伸び始めていた「低炭水化物ビール製品」の市場に対抗すべく、VBロー ドライラガー(ブイ・ビー・ロー ・ドライ・ラガー(VB RAW DRY LAGER))を発売した。アルコール度数は4.5%に設定。一見さわやかで口当たりなよさそうな見た目のビールは多くの人々の興味を誘ったが味わいが付いてこず、2010年の末には打ち切りとなった。
迷走の2つ目と言えよう。

ブイ・ビー・ロー・ドライラガー
ブイ・ビー・ロー・ドライラガー

VBローについては惨憺たる結果であったが、VBミッドストレングスラガー、VBゴールドの市場評価は実際はそれほど悪くはなかった。特にリリース当初や名称変更直後は市場も反応しメーカーの期待に添う売り上げを見せた。
しかし、先の通りアルコール度数をこっそりと下げるようなことは消費者を裏切ることにならなかっただろうか。アルコール度数を下げた結果、税金分の販売価格を下げ、XXXXゴールドの価格を下回ることに成功したが味はどうだっただろうか*。
思いの他ロングセラーとなったVBゴールドであったがこのような対応による結果か、またはXXXXゴールドの底力や伸び続けるクラフトビール市場の影響か、2020年頃に正式なアナウンスの無いまま本製品はひっそりとこの世から姿を消すこととなった。
*2018年酒量販店にて6本パックの値段がXXXXゴールド、約 A$17.50 に対し、 VBゴールドは A$17 をぎりぎり切るあたりを攻めていた

それでもビクトリアビター(VB)はオーストラリア ナンバーワン!

さて、冒頭の表現「オーストラリア国内では完全に支配的な地位を築きあげている。」に話を戻そう。

実は、ビクトリアビター及びライバルといわれ続けているXXXXゴールドもシェア、順位を少しずつ落とし続け2023年現在に発表されている前年度ビール売り上げシェアランキングではグレートノーザンブルーイング コー オリジナルにその座を譲ってしまった*。これはビール業界のニュースでも大きく取り上げられている。
*2023年ランキングではXXXXゴールドはシェア3位、VBはシェア5位となる

しかしである。本製品は長きに渡りオーストラリアのビール業界を牽引、かつ支配してきた事や、現在はシェアNo1ではないにしろそれに近い位置を守り続けている。オーストラリア国内ビールファンの間でもVBは最もアイコニックなビアだとの認知も高い。
このとから上記表現は現在においても差し支え無いものだと考えている。
これからもよほどのシェア低迷などが無い限りしばらくは

オーストラリアのビール=ビクトリアビター(VB

という考えは変わらないだろうし、このサイト内でも変えないつもりである。
この点については常に本サイト内で追い続け更新を続けていく。

日本国内でのVBの位置づけ

日本国内でこのブイビーに関して目を向けてみよう。
日本に輸入されているオーストラリア産ビールの中で最も見かけるものはおそらくフォスターズラガーではないかと思われる。
その次に見かけるのがこのビクトリアビターやXXXX Bitter(フォーエックス ビター)であろうか、時々カールトンクラウンラガーなんかを見かけることもある。また2020年頃からはクーパーズも広く見かけるようになってきた。
しかし残念ながらオーストラリアビールそのものの人気が殆ど無く販売されている店舗も少ない。そもそもフォスターズラガーですら知らない人は多いのではないだろうか。
輸入ビールといえばバドワイザー、コロナビール、ハイネケン等が目につく。
しかーし!!!日本人でオーストラリアのビールを知ろうと考えている人は何を差し置いてもまずこのビクトリアビターから飲んでおかなければならない。
「オーストラリア ビール」=「ビクトリアビター(ブイビー VB)」なのだ!
有名だからとか、よく見かけるからという理由で(オーストラリアのビールと言えば)まずフォスターズラガーからだと言われることが少なくない。
しかしそれは完全な誤りである。まずはこのブイビーからなのである!
英語っぽく言えばヴィービーからだ。このヴィービーをさし置いてオーストラリアビールを語ることはできないし、してはいけない!まずはこれからなのだ!!
(熱くなりました。すみません。)

ビクトリアビター(ブイビー)の味わい

ビクトリアビター(ブイビー)(VB)
ビクトリアビター(ブイビー)(VB)

ブイビーの味わいは我々日本人が飲みなれた一般的なビールからすると実際はかなり際立った違いを見せる。控えめな麦芽の香りではあるものの、一口目から感じる非常に香ばしい感じ、強すぎずしかし、程よく際立ったホップの苦味、オーストラリアを本当に感じさせてくれるワイルドかつ爽やかな香りでとても飲みやすく思わずガブガブと進んでしまう。とかく世界各国のベストセラーラガービールはどれも似たり寄ったり大量生産薄味な味わいを見せるが本ビクトリアビターにおいてそれは当てはまらない。飲んでいて実に楽しい。
1854からほとんど変わらない製造方法にてオーストラリア産のペールモルトに加えこちらもオーストラリア原産のプライド・オブ・リングウッドと呼ばれる苦味が特徴のホップを使用。これこそがまさにザ!ブイビーたる原材料だ。

ちなみに名前には「ビター」とつくものの近年流行りのIPAのような強烈な苦みを持つわけではない。一般的なラガービールのそれよりは深く香ばしいものの、あくまでラガースタイルとしての程よい苦さというレベルである。
オーストラリア通でなくても一度飲んだらその味は忘れられず、たまに飲むたびにどこか遠くの地元へ帰ってきた、そんな安心感を覚える。

オーストラリア人に言わせると大手メーカーが醸造する大量生産的などこにでもあるいわゆる普通のビールと表現されることが多い。オーストラリアからすれば定番品ということでそれこそが長く売れ続けている理由であることは間違いない。しかし冒頭の通り、日本のものとは方向性が大きく異るため我々日本人には新しいし大変うまいと感じるはずだ。

さて。上記のように長く説明してきたことをすべてひっくるめて。
このビールに限っては美味いだの、まずいだの香りがどうだ後味がどうだ、なんたらかんたらは本当にどうでもいいと思っている。必要ないのだ。いいから飲む。飲まなければならない。そんな存在だ。感じるのだ。オーストラリアを感じるのである。いいから今すぐだ。
オーストラリアビールでは必ず飲んでおかなければならないビール。
生まれてきたからには飲んでおかなければならないビール。

目次